出入り口のがわ、はじっかどのテーブルに、少女がぽつんと一人いる。
近所の中学校の制服である。髪は短く切りそろい、端正な顔は半眼に拈華微笑を浮かべている。
さっきからびくとも動かない。ただ、カウンタ席のえむいが大声をあげるとそれに顔を向けた。
「一句うかぶました！えむいはみやびＯＳ！　ステラテラ、ステラテラテラ、スガシカオ」
えむいはえへんと胸を張り、筆のつもりなのか、ねぎを短冊にぐりぐりする。
と、始終を眺めていた少女がにわかにすっと目をつむり、肩をすぼめてもじもじしだした。
しばらくしてぴたりと止まる。目を開き、またあの微笑でじいと、それきりもとのようになった。
その後も、ひどいさんがラーメンと麻婆豆腐を頭からかぶったとき。
2ｋ君がくだらない駄弁をふるったとき。なんぞにつけ、少女はもじもじした。
やがて、店じまいの刻になっても少女はそこへ座っている。
閉店の事をしらせると、少女はにこりと笑い「ごちそうさま」と言った。
彼女からの注文はいっぺんも無かった。水も出されたきりぬるくなっている。
だのににこにこ「ごちそうさま」と言う。
なるほど、人を食ったようである。