戸を開き、ジジイの家の玄関に立つ。
しばらく待っても誰も出迎えぬので「おい俺だ！」と怒鳴ると、
奥からTシャツ姿に腹巻を巻いたジジイが「おお、よく来たの、どうしたのじゃ」とのこのこ出てきた。
陛下陛下と呼ばれる男がこの風体は情けない、これでは他板の笑いぐさではないか。
何か言ってやろうかとも思ったが、こらえる。今日は先日のわびを言いに来たのだ。
「こないだはろくに話しもせんで悪かった、親戚に会うたび同じ事を聞かれるのでうんざりしていたのだ」と謝るとジジイめ、
「はて、こないだとは何時頃の事かの？」と首を傾げやがった。もう忘れているのだ。
アホらしくなって帰ろうとしたところ、ジジイに引きとめられる。
何かと思えば見合い写真の山を持ち出すから閉口した。
「この娘さんなんかどうじゃ？ほめ子さんといっての、趣味は物書きだそうじゃ」
嬉しそうに解説するジジイを見て、やれやれと適当に山から一冊取って見てみる。
それには帽子を被り、自分の背丈ほどある大鋏を掲げる少年が映っていた。
何だこれは。男、しかも子供ではないか。
先方の長幼男女の区別もつかぬとは、ジジイの耄碌もいよいよか。