カウンター席に腰掛ける、角のある兜をかむり、背には白く長いマント、
ひげを上品に伸ばしたその老人は、陛下と呼ばれている。
この歳になって腰折れも無く、かくしゃくとしているのは大変結構な事だが、
俺の作った炒飯を勧めても「油こいものは不健康故好かん」と、意地でも食わねぇ。
老いの一徹も大概なのだが、今健康である事が逆に後の不安を煽っているとも見える。
俺が「今日は何用で来たのだ？心改め炒飯を食べに来たわけでもあるまい」と尋ねると、
ジジイはそらを向いて「ひ孫は何時見れるのかのお･･･」と呟き「気になる娘などおらんのか？」などと聞いてくる。
この手の話には辟易しているので「嫁はその内必ず見つけるからジジイは気にせんでいい」と突っ返すと、
ジジイは「そうか･･･」と寂しげに言い、体には気をつけろと残し、トボトボ帰っていった。
少々悪い事をしてしまったか。今度わびに行こう。
そう考えたところ、ふと気付く。店内が妙に静かなのだ。
見ると客からひどいさんから食い逃げ人形に至るまで皆すうすうと寝息をたてているではないか。
やりやがったな人騒がせなジジイめ、せいぜい長生きしろってんだ。